はてしない夜の夢

永久に常しえに続くことは何としあわせな悪夢でありませう。

Never-ending story of the night.


   

御目出度くも的外れ

後輩から借用した碧巌録上・中・下をすべて読み終えた。
何故こんな難しそうな本を読みたくなったかと言うと、柳生新陰流兵法家伝書に書かれている三学円之太刀として伝わる五つの技法名が碧巌録から引かれていることで興味を持ったからだ。
一刀両断、斬釘截鉄、半開半合、右旋左転、長短一味の五つだが最後の長短一味だけが見つけられなかった。
馬大師不安のエピソードが対応していると当たりを付けていたけれど見当たらず、見落としたのだろうか?
しかし奥が深い!
古い日本語で難しく殆ど読み込めなかったが兵法家伝書が書かれた経緯や時代背景に益々興味が湧いてきた。
そして当の柳生宗矩翁の性格がちょっと意地悪なのではないかと勘ぐってしまった。
兵法家伝書が表の教えなら碧巌録は裏の教えだろうなあ、と一刀両断や右旋左転のエピソードを読んでいて感じたのだ。
練習している人たちはどれくらい理解しているのだろう?
字面だけ見て勘違いしたまま行っている人は多いかもしれない。
「え、もちろん碧巌録全部読んでるよね。碧巌録から取ったって知ってるよね。じゃあ読まずに練習とか無いよね」とか翁が草葉の陰で言ってそう。
初っ端から引っ掛け問題だらけなので「読め」と言われない限り読まない御仁たちでは気付かないかもしれない。そもそも読めとは言ってくれないだろう。


難しいながらも読んでいてはっとした部分はいくつかあるので、その中でも個人的に印象深かったエピソードを。(本は返してしまったので記憶力のみで記述)


あるお寺の若い僧の元に一人の尼僧が訪ねてきた。
始め問答などして過ごしていたが天候が崩れだし日も暮れかけていた。
若い僧は尼僧に一晩此処で過ごされては?と尋ねようと思ったが下心があるのではと思われるのが怖くて切り出せないでいた。
尼僧はそれを見抜き人差し指を立て寺を発った。
この出来事で思い悩んだ若い僧は修行の旅に出て、ある祠で一人の僧に出会う。
彼はそこで尼僧との遣り取りを話し、どうすればよいのか尋ねると僧は黙って人差し指を立てた。
その瞬間全てを悟り以降、人に教えるときに人差し指を立てるので一指禅和尚と呼ばれるようになった。
ある時、一指禅和尚の元で修行している小僧が人々に「うちの和尚は人差し指で何でも解決するんだ」と真似して見せた。
その噂が和尚の耳にも届き小僧を呼び出した。
「どのようにやっているのか、わしにも見せてみなさい」と言われた小僧はいつも通り人差し指を立てた処、和尚は持っていた鉈でその指を切り落とした!
驚いて泣き叫びながら走り出した小僧を後ろから一指禅和尚が呼び止める。
振り返ると和尚は静かに人差し指を立てた。
それを見た小僧はその瞬間大悟した。


こんなのを柳生の翁は読んでるわけです。兵法家伝書が単なる肉体トレーニングの指南書だなんて、とても思えない。
さてさて件の三学円之太刀のエピソードも、これはこれは意味深な話が展開するのですがこれはまた別のお話し。

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